鼠径部痛症候群 というものを耳にしたことのある方は少ないかもしれません。診療経験の少ない医師にみてもらうと股関節の疾患と誤って診断されることも多いようです。
症候群というと病気ではないようだしそれほど深刻ではないような、と軽くみているとエライ目に遭います。鼠径部痛症候群の複雑怪奇さをみていきましょう。
ガマンは命取り!鼠径部痛症候群とは?
痛むのは股関節のような?
鼠径部痛症候群は別名「グロインペイン症候群」ともよばれています。どちらにしても想像力を働かせにくい名称ですが、「鼠径部(そけいぶ)」とはどの辺にあるのでしょうか。鼠径部は足のつけ根にある溝の内側(近位)部分のことです。いわゆるV字ゾーンです。
ふつうに生活している分にはよほど不自然な歩き方でもしていない限り、痛めることはなさそうです。
鼠径部痛症候群はスポーツのなかでもサッカー、アメリカンフットボール、ラグビーなどの競技者に多く、特にサッカーが患者さんの7割ほどを占めるともいわれています。
無茶な体勢でキックやシュート、スライディングを繰り返しているうちに痛みを感じるようになります。このとき股関節が痛むような気がするかもしれませんが、鼠径部を中心に股関節内転筋の周辺や下腹部などの股関節に近いところが痛むので勘違いしやすいのです。
その他にも筋力低下や股関節の可動域制限も起こるため、よく股関節疾患と間違われてしまいます。それで医師も患者さんも納得してしまって治療が進むと生死には関わらなくても大変なことになります。
ガムシャラな努力は報われない?
無理やり仕方なく習っている場合などを除いては、スポーツをしている方々は努力家です。その生真面目さが鼠径部痛症候群の原因にもなり得るのです。スポーツは動作が身について自分のものになるまで、コツコツと繰り返し練習します。
この反復動作は過度の肉体的な疲労を招きます。疲労はご自身だけではなく肉体のストレスにもなり、鼠径部や骨盤、股関節、恥骨結合周辺にダメージを与えます。
このことが股関節周辺の筋力やほどよい筋緊張のバランスが崩してしまい、炎症を引き起こして痛みとしてあらわれるのです。練習量が多いほど発症しやすいというわけでもなく、体質や体格にもよります。
左右の足の長さの違い、腰痛、足首の捻挫、足の肉離れなどがあるにも関わらずスポーツを続けていると当然ながら痛みの出る確率はアップします。痛みは大腿前方外側に広がっていくようなものや、悪い場合はピリピリしたりヒリヒリすることもあるようです。
もはや股関節が痛むのか肉離れか筋肉痛か、わからなくなってしまうかもしれません。ひとまず冷湿布を貼りたくなるかもしれませんが、成分が合わないと症状の悪化につながりますので病院へ行くほうが良いでしょう。
あせらずに治すこと
病院は整形外科やスポーツ外来などを選びます。治療は多くの場合、保存的療法となります。ストレッチやマッサージを施して股関節の内転筋や腰背部の筋肉をほぐして柔軟性を高めます。この準備段階をせっかちに済まそうとすると良いことはありません。
その後、体幹トレーニングに入ります。股関節の外転筋や伸展筋を鍛えつつ腹筋、背筋もこの機会に鍛え直します。
保存療法で回復の見込みが薄いと判断されると外科的な手術の選択も示されます。鼠径部痛症候群は一度発症するとなかなかすっかり元通りに治ることはむずかしいようです。
スポーツを止めれば自然に治るというものでもありません。治った後は再発の予防に努めなければ、再発するたびに症状は悪化します。特に治った直後は軽めの運動量で切り上げることがとても大切ですし、初日はウォーミングアップのみにするというのも賢明です。
体幹から下肢にかけて伝達神経がスムーズに伝わることをイメージしながら準備運動をしましょう。股関節周辺の拘縮予防にもなります。病み上がりにしばらくお粥を食べて安静に過ごすイメージで、身体の使い方もおとなしめに始めます。
もとの運動量に戻るのは1ヶ月後くらいを目安にするくらいが、長い目でみていちばん良いといえます。
まとめ
ガマンは命取り!鼠径部痛症候群とは?
痛むのは股関節のような?
ガムシャラな努力は報われない?
あせらずに治すこと